専門家に聞く!真のビジネスパーソンとビジネス英語学習の極意

社会で価値を生み出してこそ英語学習は意味を持ちます

世界に名だたる著名人の通訳を務め、NHKラジオ講師としても人気を博している関谷英里子さん。商社やメーカーでビジネス英語と格闘し、独立後も国際ビジネスの最前線で活躍する関谷さんが、自らの体験に基づいた勉強法を伝授。グローバル時代に求められる資質についてもお聞きした。

同時通訳者 関谷英里子さん

同時通訳者
関谷英里子さん

アル・ゴア元米副大統領、ダライ・ラマ14世、フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏など、各界トップの同時通訳を務めてきた関谷英里子さん。商社やメーカーでのビジネス経験を生かし、NHK ラジオ「入門ビジネス英語」の講師としても活躍、英語セミナーを開催すれば毎度満員御礼の人気ぶりだ。

そんな関谷さんが最近、セミナーを通じて感じているのが、ビジネスパーソンの真剣度の高さだ。「ビジネス英語の必要性自体が以前より高まっているのはもちろん、ビジネスを取り巻く環境の変化も無関係ではないでしょう」と語る。

「英語によるコミュニケーションも、かつてはジェスチャーや人間性のアピールによって相手の心をつかむことができました。ところが最近は、海外とのやり取りも電話会議やメールで完結するケースが多く、実際に会って対話する機会が減っています。つまり、英文メールの書き方だけで、仕事の能力を判断されてしまうことも少なくないのです。英語力にも、現代ならではのテクニックが必要になってきています」と分析する。

一方、日本のビジネスパーソンに関して「能力レベルは非常に高いのに、それがうまく伝わっていない場面を見ることが多く、もどかしい思いをしている」と語る関谷さん。今後、日本人がグローバル社会で活躍していくためには、何が必要なのだろうか。

能力は高いのに活躍できない「もったいない日本人」

関谷さんがまず挙げたのが、意識改革だ。「大事なのはオープンなマインドを持つこと。ビジネスでの交渉というと、『相手には絶対負けられない』と肩に力を入れて臨む人がいますが、ビジネスは相手に勝つか負けるかだけではありません。今求められているのは、長い目で見て相手と同じ目標を共有するというマインドです」と指摘する。

グローバル時代にビジネスパーソンが持つべき姿勢については、関谷さん自身、大いにインスパイアされる出来事があった。様々な分野で活躍する20~30 代のリーダーを集めて行われた「G1 新世代リーダーサミット」(一般社団法人G1 サミット主催)の合宿である。時代をけん引する若手120 人が1 泊2 日の合宿を行う企画で、自民党の小泉進次郎議員やグリー創業者の田中良和さんらに交じり、関谷さんも参加した。

実態がわからない「グローバル人材」という言葉

「最近よく使われる『グローバル人材』という言葉はバズワードで、実態がよく分からないのです。英語が堪能でロジカルシンキングができて、リーダーシップもクリエイティビティーも持っている― ―。はたして、そんな人はいるのでしょうか」と関谷さんは語る。

「合宿でも『これからのグローバルリーダーとは、どのような人か?』という議論になりました。そのときに『国籍を越えて周囲にインパクトを与えられる人。また自分の言葉や行動、作品を通じて周りの人の人生を変えられる人』という話が出たのです。私も、自分が人生を通じて何をしたいか、世の中に何を伝えたいかを、姿勢や生き方で示すことが必要だと感じています」。

こうした姿勢を持つのは大変なようだが、実は難しくないと関谷さんは説く。「家族でも同僚でもいい。自分がいいと思うことや、周囲に影響を与えることを愚直にやっていく。それが、グローバルに活躍するビジネスパーソンの心構えとして、最も大事なことだと思います」。

しかしマインドだけでは、前述の「もったいない」日本人からの脱却は難しい。マインドと同時に関谷さんがその重要性を強調するのが、スキルだ。「人は言葉を通じて思考し、考えを伝えます。マインドを伝えるために、スキルとしての英語力やロジカルシンキングの力を磨く必要があるのです」。

point関谷さんの考えるグローバル人材とは?

国境や国籍を越えて人々に良いインパクトを与える力や姿勢を持つ人だと思います

グローバルで活躍する力を持つには「スキル」と「マインド」の両方を磨くことが大事です。

同時通訳者 関谷英里子さん

●スキル
思考し、発信するのは言葉なので、自分の気持ちを伝えるために、スキルとしての英語を磨くことが必要不可欠。日本人のクオリティーの高さも、スキルがなければ伝わらない。ロジカルシンキングやコミュニケーションなどのスキルも磨こう。

●マインド
自分の人生を通じて何をしたいのか、世の中に何を伝えたいのかを認識し、生き方や姿勢を通してそのマインドを示すことがビジネスパーソンに求められている。自分が良いと思うことを愚直に続ける。まずは身近なところから始めよう。

では、これからのビジネスパーソンはどのような心構えで英語を学ぶべきか。

ビジネス英語は丁寧なだけではダメ

「学校の英語とビジネス英語は違います。これまでの英語は『科目』だったかもしれませんが、もうテストでいい点を取るための勉強は必要ありません。まず、これまでの“和文英訳的発想”を変えましょう」と関谷さん。そもそも英語の世界と日本語の世界では、ビジネスカルチャーは同じではない。

「例えば日本では『丁寧である』ことが大事です。何かを依頼するときには、『お手数おかけしますが』『大変恐縮ですが』『申し訳ありませんが』というフレーズが最初に来ます。でも、そのまま“We are sorry…”という英語にすると、相手は『なぜ謝っているのか』と怪訝に思うはずです」。

ビジネス英語の学習の際に欠かせないもう1つの要素が、アウトプットだ。大学卒業後すぐ国際ビジネスの現場に身を置いた関谷さん自身は、常にアウトプットが求められていた。ときには苦しかったが、恵まれた環境にいたともいえるだろう。皆をやる気にさせるような魅力的なフレーズに出会ったらすぐにメモし、次の機会に使うように心がけた。

「ビジネスパーソンにとっての勉強は、社会人として価値を生み出さなければ意味がありません。インプットしたら、どうアウトプットするかを常に考える。覚えたフレーズを会議で言ったりメールに書いてみるといいでしょう」。

「スキマ時間」と「まとめ時間」を使い分ける

忙しいビジネスパーソンは英語の勉強時間をつくるのにも工夫がいる。関谷さんが勧めるのは「スキマ時間とまとめ時間の使い分け」だ。「週末など、まとまった時間が取れたときはじっくり学習し、通勤時間などスキマ時間に新聞記事を読むといった具合です。何をやろうか悩むより、事前にやるべきことを決めておいたほうが習慣になるでしょう」。

グローバル時代のコミュニケーション術

「丁寧」の概念を考え直す

上司と部下、先輩と後輩などの上下関係を前提にした日本語的「丁寧さ」から脱却しよう。英語では、丁寧な表現は初対面の相手に使う。既知の相手にはフレンドリーな態度も大切。

相手のリアクションから学ぶ

業界や会社によって、メールの作法は異なる。相手が“Hi, Eriko”と言ってきたら“Hi, Mike”と返すなど、相手のリアクションから英語の使い方を学ぼう。

相手の時間を尊重する

会議を開くなら、まずゴールを設定する。日本では「とりあえず顔を合わせる」ことに意味を見出す傾向があるが、海外のビジネスパーソンは時間にシビアであると心得よう。

会議は情報の共有を忘れずに

様々な文化を持つ人が参加する会議では、1つひとつ確認して前に進む。会議前にはアジェンダ、会議後にはメールで情報を共有。地味な作業をこなすことが成功につながる。

メールは仕事にフォーカスする

日本的な時候の挨拶は不要。書く自分も時間を取られるが、読む相手も時間を割かなくてはいけないと考えよう。英文メールには英文メールの作法がある。簡潔さを心がけて。

グローバル時代には、英語だけでなくコミュニケーションのスキルも必要になってくる。例えば「丁寧な言葉」の使い方にも気をつけたい。「日本では先輩と後輩、上司と部下、クライアントと請負者との関係はいつまでも変わりませんし、丁寧な言葉を使うかどうかもこの関係に縛られて続けます」と関谷さん。

一方、英語で言葉使いを決めるのは、初対面か否かだ、と関谷さんは指摘する。「初めての人には“Dear Ms. Eriko Sekiya…”と丁寧な言葉遣いをしますが、一度挨拶を交わしたあとは、“Hi, Eriko…”になることが少なくありません。職場でも、上司をファーストネームで呼ぶのは普通のこと。逆にMr. Smithと呼び続ければ、相手は『いつまでも気を許してくれない人』という印象を抱くでしょう」。英会話の際の表現は、日本人的な感覚からいえば少しくだけすぎかなと思うくらいでちょうどいい、と関谷さんは語る。相手がファーストネームで呼んだら、こちらも同じように返すなど、相手のリアクションに合わせることも大切だ。

時間に関する概念も、国際スタンダードに変える必要がある。例えば会議や打ち合わせに関しても、日本には「とりあえず顔を合わせて時間を共有すること」自体にその意味を見出す風潮がまだあるが、海外では時間管理に対する考え方がよりシビアだ。「1時間の会議を開くなら、この時間で何をするのかという目的をきっちり設定することが重要です」と関谷さん。

特に、異なる文化や背景を持つ人々が同席する会議では、しつこいくらいに確認しながら進行することも大切だという。「会議前には必ずアジェンダを用意し、会議後にはメールなどで情報を共有する。こうした地道な作業を丁寧にこなしていくことが、ビジネスでの成功には欠かせません」。

メールにも、グローバル時代ならではの作法がある。日本人はメールの文面に時候の挨拶を入れがちだが、国際ビジネスの場では歓迎されない。「前置きで人柄をアピールしたい気持ちも分かりますが、英語の文章を作るのも時間がかかるし、相手にも本題以外で時間を取らせることになります。メールでは何より簡潔さを心がけましょう」と関谷さんは指摘する。

マインドとスキル。この両輪が磨かれてこそ、ビジネスパーソンは国際舞台で輝きを放つことができる。仕事を通じてそれを体現してきた関谷さんの言葉を深く心に刻み、英語学習に取り組みたい。

point関谷流ビジネス英語学習の極意
同時通訳者 関谷英里子さん

1 「英語の発想」に切り替えよう

和文英訳的な発想から脱却しよう。日本語でよく使う「お手数をおかけしますが」「大変申し訳ありませんが」といったフレーズの英訳は、相手を戸惑わせるだけ。

2 インプットしたら必ずアウトプット

「読む」「聞く」の後は、必ず「書く」「話す」でアウトプット。その繰り返しで身につける。学んだ知識は、必ずどこかに結びつけるという意識を持つこと。

3 「スキマ時間」と「まとめ時間」を使い分ける

通勤時間や昼休みなど「スキマ」の時間には新聞記事を「読む」「聞く」などを中心に。週末や早朝などまとまった時間が取れたときは、腰を据えて学習しよう。

4 ハードルは低く設定する

リーディングなら、まず日本語訳で意味を理解してから英語を読み始めるなど、低いハードルで始めるのがコツ。勉強を1日休んでも、また明日からやればいい、と考えよう。

5 クオリティーの高い教材に触れる

英語のスキルを上げるには、クオリティーの高い教材に触れることも大切。世界的な信頼度の高い新聞記事などを読める学習教材を使うのは、オススメだ。

関谷英里子さん
Eriko Sekiya

日本通訳サービス代表、プレミア・リンクス社長。世界トップの通訳を務めてきたカリスマ同時通訳者。慶応大学卒業後、伊藤忠商事、日本ロレアルで海外との提携交渉や商品企画開発などを経験した後、独立。現在通訳として活動するほか、NHKラジオ講座「入門ビジネス英語」講師も務める。英語学習に関する著書多数。