英語公用語時代をどう生き抜くか

コミュニケーションの成否が生存の可否を決める!

 コミュニケーション能力(言葉を使うこと)がいかに重要であるか、いささか唐突ですが、「ホモ・サピエンス」と「ネアンデルタール人」との比較により説明いたします。

 約15万年前に出現したといわれているホモ・サピエンス(同時期にネアンデルタール人も生存)は、声帯と長い喉を使って言葉を発することが可能な人類だといわれています。

 ホモ・サピエンスが高度で複雑な言葉を獲得したのに比べて、ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスと同じように知的レベルも高く、火の使用もできましたが、コミュニケーションということでは、簡単な意思疎通ができる程度の言葉か鳴き声くらいしか獲得できなかったといわれています。

 その原因は、喉の部分が短く、物理的にホモ・サピエンスのようにいろいろな音声を発することができなかったと想像されます。地球に隕石が落下し、気象に大変動が起き、寒冷期に入り、凍っていく……ホモ・サピエンスもネアンデルタール人もそこにいて、寒さの中で食料確保の危機を迎える。

 ホモ・サピエンスは言葉を獲得し、文字まで獲得している者もいるので、各種の情報や知識も確保・共有し、この難関をどう乗り越えるかを考え、適切な、かつ必要な行動をとることができたといわれています。

 そして、結果として、ホモ・サピエンス(今の人間の祖先)は、地球上に起こった数々の難局、困難を切り抜け、動物との戦い、他の種族との戦いに勝ち……今日まで生存してきたといわれています。

 つまり、コミュニケーション能力が、「生命の存続」という問題にまで影響してくるのです。

コミュニケーションがいかに重要であるか

 上に述べたことは、現代の人間社会にもまったく同じようなことが言えると思います。同じ知能レベル(IQレベル)を持っていたとしても、「日本語を話すことができない」「日本語でコミュニケーションすることができない」ということになれば、この日本という国では、仕事にありつけず、通常の生活をすることは難しく、最終的には絶滅してしまう運命を辿ると思います。ネアンデルタール人の末路と同じように。

英語をマスターした人とそうでない人の違い

 生々しい話で恐縮ですが、いろいろな機会に友人(団塊の世代)と会食することがありますが、「英語」「職責」、そして「収入(年俸)」ということで彼らの現状を分析してみると、「英語」 という言語を使ってビジネスパーソンとして活躍してきた人と、まったくローカル・ビジネスだけでやってきた人とでは、収入でおそらく50%から100%の差があるように思います。

 つまり、「英語」を使いグローバルな環境で、ビジネスパーソンとして働いてきた人の年俸は、そうでない人の年俸の約150~200%レベルではないかと思います。

 これは、日本の会社でもやはり 「英語」 という武器を持っている人は、非常に有利な立場になる可能性が高いということを表していると思います。

 外資系の金融会社に勤務して、あるレベルの職責を担っている人は極端に多い年俸を獲得していますが、この外資系金融会社で仕事をしている人は特別にしても、ごく普通の外資系企業(グローバル企業)の平均年俸は、日本のそれに比べるとかなり高額です。

 特に、役員クラスになれば、日本よりベネフィットの高いボーナス制度や、フリンジ・ベネフィット(年俸以外の会社が支払ってくれるベネフィット=車の供与、ゴルフ会員権、メンバーシップ倶楽部への入会など)が与えられ、給与も含めたトータルの待遇は極めてよいと思います。

 日本でも、最近はこのようなグローバル企業の待遇をベースに、かなり高い水準の報酬制度を設けている会社も出てきました。日本の会社でも、企業自体がグローバル化することによって、日本の従業員を単に海外出張、海外駐在させるというような非常に初期段階のアクションだけでは、この急速に変化するグローバルの波に乗ることはできなくなりました。

 典型的なオーナー経営のある会社(C社)では、その会社の株式の20%ほどを同じ業界の米国大手企業が保有しています。将来、その会社とのコラボレーションを真剣に考えると、「よりグローバルに対応できる人材=英語も完璧で、グローバル・ビジネスで活躍した人」を経営陣にヘッドハンティングすることが必要となり、業界はまったく違うのですが、ある外資系の社長をヘッドハンティングして、彼は今、その日本の会社のCEOとして活躍しています。

 今後のグローバル化が進むビジネス環境を見据え、C社は、非常に正しい判断をしたと思います。つまり、「ネアンデルタール人からの脱却」を果たしたのです。

 このままでは、知能レベルの高い集団を抱えていても、グローバル・コミュニケーションができないということで、この業界から淘汰されてしまう危険を感じたのだと思います。過去の偉業や成功に固守するのではなく、将来の風を読み、早めに変革に取り組んだのだと思います。

英語は単なる外国語ではなく、グローバル社会で生き残るための絶対的に必要な武器(ツール)なのです。

 中学、高校では誰もが「基本的なことを習っている」英語ですので、ロシア語やイタリア語を初歩から勉強するということではありません。昔、いや、ついこの間勉強したことを、少し思い出していけば、「英語学習」ということは、それほど大きな問題ではありません。

 30年から40年前には、英語は本当に外国語でした。したがって、「特殊な人たち」ができればよかったのです。しかし、今の世の中は、まったく別の世界になってしまいました。

 私のように外資系で働いている限り、英語が喋れなければ出世はできません。少なくとも、多くの外資系企業(グローバル企業)では、英語ができないと部長以上にはなれないと思います。英語があまりできなくても、外資系企業で生き残る場所も一部ありますが、しかし、マネジメント・レベルの職責を目指すなら、今のグローバル言語(地球共通語)である「英語」をかなり高いレベルにしてゆかなければなりません。

日本企業は急速に「グローバル化」しなければならない

 これは外資系企業(グローバル企業)に勤務している人だけの話ではありません。日本の会社が海外進出の大きな戦略として、「英語の公用語化」を実施し始めています。つまり、米国、英国のほか、英語を話す国以外のエマージング・マーケット(中国、インド、インドネシア、その他の東南アジア、ブラジル、ロシアなど)に対しても、英語でコミュニケーションをしなければなりません。

 今、日本の会社で話されている英語のほとんどは、非ネイティブ同士の英語です。そして、今、まさに、日本の会社で働く人も昇進のために、英語力がどうしても必要な時代になったのです。なぜなら、日本の会社でも、社長が外国人、役員が外国人という会社が急速に増えてきたからです。大株主が外国会社という例も増加しています。

 一番わかりやすいのは、日産自動車のケースだと思います。日産の経営が芳しくなく、ルノーの資本が入ったと同時に、日産の社長にカルロス・ゴーンさんが就任しました。その時、日産社内ではいろいろな意味で震撼が走ったと思います。

 これまでの日産の歴史の中で仕事をしてきた人間が、本当にグローバルなマインドセットに切り替え、将来を生きてゆかなければならないという強い意識が社員全員に宿ったと思います。

 携帯電話で大きなシェアを占めるノキアは、フィンランドの会社ですが、フィンランドは「英語リテラシー」が極めて高い国です。

 ノキアにとって、フィンランド国内でビジネスを拡大する可能性は小さく、この高い英語リテラシーを生かして最初からグローバル戦略を展開してきたのです。

 ある意味では、韓国にも同じようなことが言えると思います。人口は、フィンランドよりもはるかに多いですが、日本と比べると、5分の2くらいです。

 韓国国内の消費だけを考えていたら、成長は期待できません。サムスンはいち早く、「この韓国に焦点を合わせていたら、将来成長できない、生き残れない!」という判断のもと、グローバル戦略を推し進めました。

 そしてグローバル企業が必要としている優秀な人を集めてきました。

 その結果、今は、同業である日本の大手企業(ソニー、パナソニック、東芝、日立製作所など)よりもはるかに大きなビジネスを展開する、名実共に世界のグローバル企業になりました。

阿部川久広(あべかわ・ひさひろ)

浅見隆(あさみ・たかし)

プロフィール1948年東京生まれ。明治大学法学部、早稲田大学第一文学部英文科卒業。
長瀬産業コダック製品事業部でロジスティックス、およびマーケティングを担当。その後、スポルディング・ジャパンでマーケティング部長、営業部長、統括本部長を歴任、1991年代表取締役社長に就任。1998年ジョンソン・エンド・ジョンソン副社長、2001年~2011年レブロン代表取締役社長。

◆日経Bizアカデミー「つぶやき英会話学習法」より

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