単語はたったの1500語。
ビジネス現場でのコミュニケーションを重視して選択

提唱者ネリエール氏の経験から選ばれた
グロービッシュの1,500語

 グロービッシュの最大の特色として、限られた単語数のお話をしました。また1,500語は、「使える」単語リストとして、決して少なくないこともお伝えしました。ここでは、英語の語彙に関して、もう少し踏み込んで考えてみましょう。

 一般的にどんな言語体系の言葉でも、その言葉を母国語としている人は、5,000~6,000語ほどの単語を覚えており、2,000~3,000語あれば日常生活には困らないと、経験則的に言われています。グロービッシュは、ビジネス現場でのコミュニケーションを的確に行うために考案された体系ですから、これらの体験的な数字に鑑みても、その妥当性はお分かりいただけるでしょう。膨大な単語の暗記に多くの時間を費やすよりも、まずは頻度の高い単語を使ってコミュニケーションをとることのほうが先決というわけです。

 では、どういう基準でこの1,500語が選ばれたのか? これは「グロービッシュの提唱者であるネリエール氏の長年のビジネスマンとしての経験に依る」ということだと思います。実際に30年以上ビジネスの第一線でご活躍された同氏が、経験から紡ぎ出した体系そのものがグロービッシュですから。もちろん、この選択に異議を唱えることはできるでしょう。曰く「より重要な単語が入っていない」、「1,500語では少ないから、2,000語に増やしたらどうか」、「なぜ、beer(ビール)など簡単な単語は入っているのに、accomplishなど、ビジネスでより使われる頻度の高い単語が入っていないのか」などなど。

 しかし私は、単語の選択の基準や、1,500語に含まれない単語に関して難癖をつけるより、一人の優秀なビジネスマンの、英語に対する考え方の一つとして認めることのほうが、より建設的な考え方ではないかと思います。従来、このようなビジネスコミュニケーションの視点で、しかもビジネスを深く長く経験した方が英単語を選択した例はそう多くはないですし、一つの指針として学習のよりどころにするほうが、批判するより効率的だと考えるからです。土台、単語の数だけを問題にするのであれば、少ないよりは多いほうが良いに決まっていますし、1,500の単語数に関して、1,600語にしろ、いや1,700語だ、などと議論することはナンセンスだと思います。

 また1,500語の中には、すでに私たちが中学・高校で習った、馴染みの深い単語もすでに多く入っているのです。例えば「A」の項目からちょっと拾ってみてもこんなにあります。

able, about, after, again, age, air, also, and, answer, apple, ask…

つまり、1,500語とはいっても、おそらく半分ぐらいの単語は、すでにみなさんが知っている単語の可能性が高い。あとは、それらの単語の実際の使い方、そして1,500語から発展して、より多くの語彙の習得を可能にする、単語数増加のポイントの2つを学べば、英単語はまったく恐れるに足らずです!

1,500語から5,000語へ簡単に拡張する4つの方法

 単語数は多いに越したことはないですが、まずその足掛かりとして1,500語をしっかり学びましょう。そして実はこの1,500語は、語彙を増やす観点も考慮して選択されています。ネリエール氏は1,500語を学ぶことプラスアルファの考え方で、この語彙数が5,000語まで拡張できると言っています。 ではどうやったら、それが可能なのか。4つの具体例を見てみましょう。

(1)1,500語の単語同士をつなげる

1,500語の中の特定の2語を繋げて、一つの単語を作る。すなわち前の語は形容詞として、後ろにくる言葉を形容する、とすると、多くの新しい単語ができることになり、単語数が増えます。

例:

・Work + man = workman
・Bed + room = bedroom
・Class + room = classroom
・Day + time = daytime
・Week + end = weekend
・Home + work = homework
・Man + kind = mankind

(2)単語の前後に何文字かをつけ加える(接頭語、接尾語)

英語では、単語の最初や最後に、affix(接辞)と呼ばれる文字を付け加えて、もともとの単語の意味を、否定や繰り返しの意味にしたり、形容詞を名詞にしたりすることが可能です。頭に付ける文字のことをprefix(接頭語)、後ろにつける文字のことをsuffix(接尾語)と言います。

prefix(接頭語)の例:

・Im + possible = impossible(不可能な): imは否定を表わす
・In + correct = incorrect (正しくない): inは否定を表わす
・Un + happy = unhappy (幸福でない): unは否定を表わす
・Re + new = renew (新しくする): reは再度を表わす
・Pre + view = preview (前もって見る): preは前を表わす

これら以外にも、anti-, auto-, com-, con-, dis-, inter-, micro-, non-, post-, pro-, sub-, ultra-, などが代表的な接頭語です。

suffix(接尾語)の例:

・Possible + -ity (可能性): -ityは形容詞を名詞に換える
・Happy + -ness (幸福): -nessは形容詞を名詞に換える
・Renew + -al = renewal (再生): -alは動詞を名詞に換える
・Return + -able = returnable (返却できる): ableは動詞を形容詞に換える
・Special + -ly = specially (わざわざ): -lyは形容詞を副詞に換える

これら以外にも、-active, -ent, -ful, -ical, -ize, -less, -ous, -ness, -ment, -ship, などが代表的な接尾語です。

中学時代、英語を習い始めたころの知識が役立つ

(3)同じ単語を、別の品詞として使う

単語の中には、綴りは同じでも文章の中での使われ方が名詞であったり、動詞であったり、あるいは形容詞であったりして、それぞれの意味が異なるものが多数あります。

例えば、ageという単語は、名詞では「年齢」、動詞として使わる場合は「年をとる」、「古くなる」、また形容詞としては、例えばage problemなどの場合のように、記憶力が衰えるなどの「老化現象」のことを指します。

(4)前置詞を用いて、動詞句として使用する

中学時代に英語を習い始めたころ、getにupがついて、「起きる」(例えば、I get up 7:00am every morning.)、takeにoffがついて、「脱ぐ」(例えば、I took off my shirt.) など、前置詞とやらが動詞の後ろにくっついて、ある特別な意味を表わすことを学習した記憶のある方も多いと思います。

あるいはこれらをイディオム(熟語、あるいは慣用語句)として覚えている方も多いと思います。代表的なもののみ記します。

Put off:延期する

We have put off the meeting.
ミーティングは延期でした。

Take off:脱ぐ、飛行機などが離陸する

Please take off your shoes here.
ここで靴を脱いでください。

Take over:引き継ぐ

He took over the business from his father.
彼は父からそのビジネスを引き継いだ。

Take out:取り出す、持ち出す、持ち帰る

The manager is taking his team out for a meal next week.
来週マネージャーはチームメンバーを食事に連れ出すつもりだ。

Get off:降りる

He got off the bus and took the subway.
彼はバスを降りて、地下鉄に乗った。

Get up:起床する

I got up early this morning.
今朝は早く起きた。

Get over:乗り越える、克服する

We should get over this financial problem.
この経済的問題を乗り越えないといけない。

Get out:出ていく

You had better to get out into the fresh air.
外に出て新鮮な空気を吸うと良い。

阿部川久広(あべかわ・ひさひろ)

阿部川久広(あべかわ・ひさひろ)

マーケティング・PRコンサルタントを経て、アップル、ディズニー、CNNなどでマーケティング、マネージメントの要職を歴任。現在は、アイティメディア(株)バーチャルイベント事業推進部エグゼクティブ・プロデューサー。大学在学時より通訳、翻訳を通じて数多くのビジネス英語業務に従事。CNNニュースキャスター、神戸大学経営学部非常勤講師、立教大学大学院MBAコース非常勤講師、フェローアカデミー翻訳英文法講座講師も務める。2007年にはJapan Times社「News Digest」で「斬れる英語」を1年半にわたり連載。著作に「たった3時間でやれる勘違い英語完全克服術」、翻訳書に「見えてる人になるたった一つの法則」(セス・ゴーディン著)などがある。

◆日経Bizアカデミー「「英語の壁」を突破するグロービッシュコミュニケーション術」より